<<和斗〜微積分より難しいのは・・・〜>>


  高校三年・夏。

「カズ〜・・・ここがわかんねーよぉ。おせぇて・・・」
「わかったから、甘えた声を出すな!キショい」

 俊平がおれに対して、こんな甘えた声を出すのは大抵困った時だ。
 男のクセに、恥ずかしげもなく、そういう声を出す。

 ・・・それを、そんなに嫌だと感じないのだから、おれもまんざらでもないらしい。
 ただ・・・コイツは、おれと別々になったらどうする気なんだ?
 ・・・いや、コイツは順応性があるから、もしかしたら、心配なのはおれのほうか?

「おら、どこがわかんねーんだ?」
おれは俊平の頭をプリントの山で小突きながら、机の上の教科書を覗き込んだ。

 あー・・・微積分ねぇ・・・。
 そりゃ、俊平じゃ、わからん。

「説明してもいいけど、理解できるか?」
「いやぁ・・・無理かなぁ?なはははは・・・」
「・・・ま、お前は勘はいいからな。
 こうしよう。
 試験まであと五日だから・・・ヤマを張ってやる。
 それで、解き方だけを念入りに覚えろ。わかったか?」
「わかった。いつもごめんな?カズ」
「いつものことだから、慣れたよ」
珍しくすまなそうな表情をする俊平に、おれは笑いかけて、プリントの山を持ち直した。
 すると、俊平が不思議そうにプリントを見上げてきた。
「カズ?それ、何?」
「あ?あぁ・・・。数学の課題と・・・ん?文化祭実行役員募集の告知?」
おれは尋ねられるままに、プリントをめくっていって、そのポスターを見つけた。
 ・・・とはいえ、締め切りはテスト明けすぐじゃないか・・・。
 配るの、遅すぎだろ?
 今頃、貼っても効果なんてねぇっつーの。

 おれが、心の中でそんなことを呟いている間、俊平は何かを真剣に考え込んでいた。
 そして、決意したようにバン!と机を叩く。
「な、なんだよ?いきなり・・・」
「オレ、やりたい!」
おれが驚いて、俊平を見つめると、俊平は元気いっぱいにそう言った。

 いや・・・ここで、やりたいって言われても・・な?

「試験終わったら、話し合いで決めるから」
「絶っっっ対、オレがやる!!」

 目に迷いがない。
 こういう時のコイツは誰も止められないからなぁ・・・。

 なんで、そんなにこんな仕事をやりたいのかはわからないけど、
まぁ、俊平の生き生きとした表情を見るのも久々だったから・・・
おれは、それ以上は何も言わないことにした。




<<〜優等生コンビ?〜>>

高校三年・春。

「よろしく、細原」
にこやかに、瀬能さんはおれに向かってそう言った。
彼女は、おれがいつも一目置いていたクラス委員長・瀬能綾。
だけど、同じクラスになったことから、おれが委員長。彼女が副委員長になった。
一緒に仕事をこなすうちにわかったのは、やっぱり、彼女はできる子だということ。

さっぱりしていて、そのくせ、人への気遣いを忘れない。
だけど、どこか、無理をしているようにも、おれには見えた。

そんなある日・・・
「もう! やってらんないわよ、本当に!!
こっちは大事な試合控えてるっていうのに、臨時会議だって!」
おれが誰もいない教室で、参考書に目を通していた時だった。
聞きなれた声が、放課後の廊下に綺麗に響いた。
「大変だね、綾ちゃん」
「変わってほしいくらいよ、ひより」
「え、え、え?? わたしじゃ、無理だよぉ」
「冗談よ。
ただ、話聞いてれば、細原がどうにかしてくれるから、アタシなんて要らないようなもんなんだけどなぁ・・・」
ため息混じりにそんな言葉を口にして、瀬能さんと水谷さんが教室へと入ってきた。
おれは参考書から目を上げて、2人を見た。
瀬能さんは、まずいところを見られたとでも言わんばかりに、表情を引きつらせている。
水谷さんは不安そうにおれと瀬能さんを交互に見やっている。
「そんなことないよ、瀬能さん。
君がいないと、おれは困るんだけど」
おれは別に気にしないで、笑ってそう言った。
瀬能さんは、開き直ったのか、
「それはどうも」
とだけ、言葉を返してきた。

水谷さんが帰って、おれと2人で会議室に向かう途中・・・
瀬能さんは静かに言った。
「さっきのことだけど・・・」
「さっき?」
困ったような瀬能さん。
「その・・・」
「あれが本当の瀬能さん?」
おれは笑って尋ねた。その言葉に驚く瀬能さん。
「え?」
「お互い、タヌキだね」
おれがそう言うと、
瀬能さんはその言葉を少ししてから理解したのか、
「・・・そうね」
とこくりと頷いた。それから・・・
「引かれたかと思ったわ」
とおかしそうに笑う。

優等生ってレッテルも結構大変なんだよな。
おれの場合は、それを上手く利用させてもらってるし、
たぶん、瀬能さんのさっきのリアクションを見る限りじゃ、
おれと同タイプだと思う。

「いやいや、それはないよ。
おれ、あんまし、人のイメージとかって固めないほうだから」
おれは軽く笑ってそう返した。
「親切そうな顔して、意外と冷めてるのね」
「そう?」
「だって、それって、あんまり人に興味ありませんって言ってるようなものよ?」

そう言われて、おれはぽんと手を打ち合わせて、わざとらしく、
「ああ、そうか」
と言った。
「アタシにも、大して興味ないから引かない。そういうことでしょ?」
瀬能さんが意地悪げに笑う。
「さぁ、それはないと思うよ」
おれは即答した。

むしろ、おれは、こういう子のほうがよかったので、
それは本音だ。

「まぁ、卒業まで長い付き合いですから、気を抜いていこう」
「それじゃ、細原といる時は気にしないことにするわ」
「水谷さんと同位置? そりゃ、光栄だ」
おれは瀬能さんに笑いかけながら、会議室のドアを開けた。




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