<<圭輔〜憧れの先輩と・・・憧れの・・・〜>>
高校二年・春(俊平基準)。
ボクは、俊平さんの走る姿に一目惚れして、部活を陸上部に決めた。
一目惚れっていうのは・・・変な意味じゃなくて、
俊平さんのフォームは、とてもスマートで、すごく目を引くいいフォームだったんだ。
「自己・・紹介かぁ・・・」
ボクは小声で呟いた。
俊平さんの走りに一目惚れしました!なんて言ったら・・・笑われるのかなぁ・・・。
「・・・はぁ・・・」
ボクがため息をつく、その前に、隣に座っていたネコッ毛の女の子がため息をついた。
ボクは、今まで全く意識していなかった、その女の子に親近感が湧いた。
チラリと・・・女の子の表情を盗み見る。
気の強そうな瞳をした女の子が、少しだけ緊張した面持ちでどこかを見つめていた。
・・・だけど、
「オレ、谷川俊平で〜す!短距離専門!
なんか、困ったことあったら、オレに頼ってね♪」
と、俊平さんが軽い調子で自己紹介をした時、女の子の表情が和らいだ。
ボクがそんな女の子の表情に目を奪われている時、俊平さんは先輩たち全員につっこまれていた。
エースってだけじゃなく、ムードメーカーなのかもしれない。
女の子が・・・楽しそうな、だけど困ったような目で、そんな俊平さんを見つめていた。
「次、誰?」
しばらく、そうしていると、女の子に順番が回ってきた。
慌てたように、女の子が立ち上がる。
慌てた表情が、すぐに可愛らしい顔の下に隠れた。
「椎名邑香。マネージャー志望です。
中学では文化系のクラブにいたので、不慣れなことが多いと思いますが、
長い目でよろしくお願いします」
物怖じしないでそう言い切ると、椎名さんはすぐに座ろうと椅子を引いた。
・・・んだけど、
「なんで、文化系から運動系に?」
という少し冷やかしに近い声が上がったので、(無視しても構わないのに)椎名さんは体勢を戻して答えた。
「あたしの中学はマネージャーって枠がなかったのでやりたくてもできなかったんです。
それと・・・陸上部のマネージャーを選んだのは、シュン・・・ぺいさんのフォームが好きだからです」
椎名さんは堂々と、そう言い切った。
周囲からはやすような声が上がったけど、椎名さんは照れる様子もなく、俊平さんを見ていた。
俊平さんが少しだけ困った顔をしている。
ボクは、椎名さんに敬意を表したかった。
あんなふうに、物怖じしないで言い切れるなんて・・・。
だから、ボクも自己紹介でこう言った。
「岸尾圭輔です。短距離志望。俊平先パイのように走ってみたいと思っています!」
俊平さんと邑香ちゃんが付き合ってるのを知ったのは、そのすぐ後だった。