<<奈緒子〜俊平さんの強さ〜>>


  高校二年・冬(俊平基準)

 耳に刺さるような急ブレーキの音がして、私の体に鈍い衝撃が走った。
 それから先は記憶がない。
 目が覚めたら、病院のベッドの上。
 お父さんとお母さんが、私の手を握ったまま眠っていた。
 おぼろげな意識の中で、自分の置かれた状況を考える。
 ・・・なんとなく、察しはついた。
 車に轢かれて病院に運ばれたんだ。
 あの瞬間が、頭の中をフラッシュバックする。
 体が震えた。
 二人は、どれだけ心配したんだろう?
 お仕事で忙しかったはずなのに。
 私は静かに考える。
 心配だけはかけたくない。
「奈緒子・・・?」
お母さんが目を覚ました。
 私はいつも通り、元気に笑って答える。
 誰にも心配されたくない。
 ・・・心配なんて、かけたくないの。

 それからしばらくして、俊平さんが入院してきました。
「無理に笑われるのって、結構シンドイんだよ?」
俊平さんは苦笑して何気なく言ってくれました。
 あの時、私は・・・その言葉がとても嬉しかったんです。
 あなたの笑顔は・・・とても優しいから。
 



<<〜夢はいつでも、空高く!〜>>

 高校二年・秋(俊平基準)

「奈緒子ってば、また巧くなってるんだもん!なんなの?あんたは一体〜?」
「にゃはは・・・私は秘密研究の下に作られた音楽サイボーグなのでした♪」
「・・・また、意味がわからんことを言ってるよ、この子は」
サオリとユッコが私のことを見て、呆れて笑う。
 だって・・・褒められると照れるんだもん〜。
「本当に、先生もめちゃくちゃ褒めてたじゃん。こりゃ、将来は名ピアニストか〜?」
「うん♪私の夢はピアニストだよ。」
「言い切ったね、この子は」
「いつものことだよ。ま、この子が言うと普通に聞こえてしまうあたり、
 あたしたちもかなりこの子のノリに慣れてきちゃってるよね」
「なんだなんだ〜?二人とも、元気がないぞぉ!夢欠乏症かぁ?」
私はお茶目にそう言った。
 二人は顔を見合わせて笑う。
 ん〜?私、おかしいこと言ってるかな?
「そういやさ、進路相談の紙、なんて書いた?二人とも」
ユッコがいきなり話題を変えた。
「あ〜・・・あたしは別の高校受けたいって書いたよ?」
ってサオリ。
「あたしもそうしたよ」
それに答えるようにユッコ。
 そして、二人が私を見る。
 わかってるけど、一応聞いておこうって顔してるよ。
 むむ・・・?
「残念でしたぁ♪私も他の高校に行きたいって希望出しちゃった〜」
私の中学は、初等部から大学までエスカレーターになってる、結構有名な中学だったりします。
「えぇ?嘘ォ?」
二人が声を合わせてそう言う。
「嘘ではないのです♪」
「なんで?だって、このまま行ったほうが奈緒子にとっては都合いいじゃない?」
「う〜ん・・・そなんだけどぉ、なんか、せっかくの高校生活なら自分で選びたいなぁ・・・なんて」
「この子の思考回路がわかりません」
「あたしも右に同じ」
 サオリとユッコ・・・困った顔してる。
「にゃはは・・・まぁ、人生は冒険ですよ♪」
私はそう言って笑った。
「あ、それじゃ、私、これからレッスンだから、こっち!じゃね」
私はサオリとユッコに手を振って別れる。
 サオリもユッコも、それぞれやりたいことがあるらしい。
 二人ははっきりと言いたがらないから、私も最近は聞かないことにしてる。
 人って、それぞれだもんね♪



<<〜不安定な気持ち〜>>

  高校3年・夏(俊平基準)

 ホールに、ピアノの音が響く。
 そのピアノの音を聴いてる人は誰もいない。
 少しだけ、外が薄暗くなってきてる。
 夏の怪談話の一つに・・・私が貢献できたら、それはそれで楽しいかもしれない♪
 私はそんなことを考えて、少しだけ口元を緩ませた。
 指が快調なペースで鍵盤をポンポンと押していく。

   楽しい・・・・・!
   こんな、楽しいもの・・・きっと他には出会えない。

 私はにっこりと笑って、ペダルを踏む足に少し力を込める。
 ・・・けれど、踏み込んだ足は痺れたように動かなくて・・・。
 私は、顔をしかめて演奏を中止した。
 ポロポロロン・・・と、情けない音を立てて、それまで流れていた音楽が止んだ。
 少し、左腿をさする。
 別に・・・いつもこんな調子な訳じゃない。
 ・・・でも、できれば、演奏中にこんなことになるのはやめて欲しい。

「君の足が思ったように動かないことがあるのは、
 君の精神的な問題が多分に関係していると思うんだ。
 少しでも・・・溜め込むようなものがあるのなら、無理をせずに・・・ね?」
お医者さんはそう言った。

 私の精神的問題?
 なにそれ?
 私、そんなのわからないよ。
 だって、ピアノが弾ければ、私、別に何も要らないもん・・・。
 ただ・・・少し、怖い夢を・・・見るだけだもん。
 人に・・・話さなくちゃならないほどのことなんて、なんにも・・・ないもん。





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