<<拓海〜年下の、純粋な男の子〜>>

  高校三年・秋(俊平基準)

「弟がいたら、こんな感じだったのかしらね?」 
俊平くんの楽しそうな顔を見ていると、つい顔が緩んでしまう。
「弟ですか?はは、オレも、拓海(たくみ)さんみたいなお姉さん、欲しかったなー。」
嬉しそうに笑っている。
 なんというか、スレてなくて、素直で潔い子。
 こういう純粋な人・・・わたしの周りにはいなかったな。
「俊平くん、兄妹は?」
「生意気な弟と妹がいますよー。」
「あら? 俊平くん、長男?」
「見えないって言いたいんでしょう?いいっすよ、わかってますから。」
俊平くんがすねたようにそう言う。
 ・・・確かに、ずっと末っ子かと思ってた。
 とりあえず、わたしは笑ってごまかす。
 俊平くんは、はぁ・・・とため息をついて空を見上げた。
 わたしもつられて見上げる。
 夏も、もう終わりね。
 星空が、少し遠くに見えるわ。
「今日は、付き合ってくれてありがとう。」
わたしは俊平くんを見上げて笑った。
 ノリが軽いから小さく見えるんだけど、・・・やっぱり男の子なのね。
「いえ、オレも楽しかったですから。」
優しく笑う俊平くん。
「受験勉強もしっかりやるのよ。」
 ・・・なんとなく、別れるのに名残惜しさを感じる。
 わたしの中で、彼はそんな存在になりつつあった。   



<<〜きみは誰が好きなの?〜>>

 高校三年・秋(俊平基準)

「俊平くんはまっすぐでいい子だわ」
「まぁた、そういう言い方をするんだから」
わたしがニッコリ笑ってそう言うと、俊平くんは困ったように笑った。
「これは、褒めてるのよ♪」
「なんか・・・複雑なんですよねぇ、拓海さんの口調」
「あら?そうかしら?まぁ、別にいいじゃない。
 俊平くん、わたしのこと、恋愛対象として見てないでしょう?」
わたしは、躊躇いもせずにそう口にした。
 それは真実で、わたしにとっても、彼はそんな存在にはなりえない。
 だから、言えた言葉。
「・・・う〜ん・・・まぁ、そうなんすけど、それとこれとは別っていうか・・・」
 俊平くんも口ごもりながらそう言った。
 ふふ♪
 楽しいじゃない。
 恋愛対象でもないのに、わたしと話をしに来てくれるんだから。
 元々、芸術家のはしくれみたいなわたしは、そういう関係って嫌いじゃない。
「俊平くんは・・・気になる子とかはいるのかしら?」
 これは、単にわたしの好奇心。
 からかってるつもりは全くないわ。
 でも、たぶん、俊平くんは・・・
「な、な、いきなりなんですか?!」
・・・やっぱり。
 予想通りの反応。
 本当に、いい子だわ。
「いるみたいね?」
「べ、別に・・・いませんよ」
「う〜ん?どの子かなぁ?」
「どの子って!拓海さん、知ってるんですか?オレの友達」
「・・・・・・。さぁ?どうでしょう?」
「ちょ、なんですか!その思わせぶりな笑顔は!」
 本気で困ってるわね。分かりやす過ぎるわ、俊平くん。
 わたしは堪え切れずに吹き出した。
 俊平くんったら、本当に・・・まったく・・・。
「好きな人いるなら、ちゃんと告白しなくちゃね♪」
わたしはニッコリ笑って、さらりと言った。
 ここは、有無を言わさず逃げるとしましょう。
「さて、お姉さん、仕事あるから、そろそろ帰りなさい」



<<〜少しだけ、昔の話〜>>


  それなりに結構前。

「月代さん」
先生が優しくわたしを呼び止めた。
 わたしはそっと、振り返る。
 髪も、スカートも・・・ほとんど翻りはしない。
 それは、いつものこと。
 だけど、”あれ”以来、一層、わたしの振り返る仕草はおとなしくなったかもしれない。

「聞いてちょうだい!
 月代さん、成績が申し分ないから、このままエスカレーターで大学まで行けるそうよ」
先生は嬉しそうに、わたしに対してそう言ってくれた。

 それなりに・・・やればできる子・・・というのも、
こういう時には役に立つものなのね・・・と、わたしは冷ややかな笑みを浮かべそうになる。
 わたしは、ふと、思いを馳せた。

 このまま、附属の大学に行って・・・それでいいのか? と。

「そう・・・ですか」
わたしは気のない返事をして考える。
「あら? あまり・・・嬉しくなさそうね」
先生が今まで浮かべていた笑顔を、少し翳らせた。
 わたしは、すぐに笑顔で取り繕う。
「いいえ。ただ、わたし、他の大学のことも調べてみたいんです」
「ああ、そうなの?」
先生はまた嬉しそうに笑った。
 両手をパンと鳴らす。

 少し・・・どこかに行ってくれないかな・・・。
 まだ、わたしは人に優しくできる状態じゃないんだから・・・。

「月代さんの学力なら、結構レベルが高くても狙えると思うわ。
 そうね、資料が欲しければ言ってちょうだい。
 先生、少しでも、力になってあげたいのよ」
「ありがとうございます」
笑顔が引きつっているような感じがする。
 でも・・・構わない。
 わたしは、そっと震える右手を左手で押さえつけた。



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